今年5月の研究発表で、ロシアの遺跡に存在する人工的に作られた地下空洞は、世界最古のキリスト教の教会である可能性がでてきている。そしてその調査には、宇宙から照射されるミュー粒子を用いるのだという。
この謎に包まれている地下の建造物は西暦300年頃に作られたとみられており、ロシア最南端の都市デルベントにある要塞跡で発見された。ロシアの国立工科大学MISIS(National University of Science and Technology)の研究チームは、この建造物は教会や消防署としての機能の他に、貯水槽としても活用されたのではないかとしている。
地下10メートル以上にわたって建造物が隠されている状態なのだが、この要塞自体がユネスコの保護下にあるため、大規模な発掘調査を行うことができない状況だ。そこで、2017年にエジプト・ギザのピラミッドで大空洞を発見した際と同じ、宇宙から照射されるミュー粒子という素粒子を捉える解析方法で、まるでレントゲン写真のように建造物の構造を明らかにした。
ミュー粒子は、光速に近い速度で物質を通過していくが、密度のある物質を通過する際にエネルギーを失って崩壊していく。そこで、ミュー粒子の数を計算することで建物内の密度を把握し、全体像を立体的に浮かび上がらせようというのだ。研究者たちは、この構造物の中に10mの大きさのミュー粒子検出装置を設置し、2ヶ月間測定を行なった。
これまでの例から、こういった人工的な地下空洞は貯水槽であると考えるのが一般的であったが、今回のものは、研究者たちはそう思わなかったようだ。17世紀や18世紀に貯水槽としても使われていたとはみられてはいるが、構造的に教会のような別の目的があったのではないかと考えているようだ。
現段階では、3次元的に構造を把握したことによって単なる貯水槽ではないことが判明した状況だが、まだまだ分からないことも多い。研究チームは、ミュー粒子検知装置を用いてさらに多くのデータを収集できれば、この建造物が教会であることがわかるだろうとしている。